0 歯車が狂い始めた夜


窓から見える海は、もう真っ黒になっていた。でも、そこから見える街の夜景が、ひときわきれいに見えた。
仕事に疲れたサラリーマン、駅の構内で寝るホームレス、行きたくない塾に借り出される子供達、 そんな人々の負の感情しか映さないと思っていた夜が、今日ばかりは一種の輝きを見せていた。

でも、 何が悲しくて、 3人部屋に1人で居るんだろう――。
兼代駿介(稲毛区立園生緑地中学校3年4組男子7番)は、無駄に明るい部屋の中で自問自答していた。
今日は修学旅行の1日目、今、駿介たち園生緑地中学校3年生御一行様は、銚子のホテルに泊まっている。
廊下に出てみると、お約束の部屋移動が始まっていた。
消灯時間なんか、おかまいなし。廊下が暗くなった後も、先生の目を盗んで他の部屋にお邪魔する…なんてことはお決まりの手だ。


駿介には、誰も彼の部屋に尋ねてくる友達なんて居なかった。
駿介自身、そんなに疎遠されるような性格ではなかった。
ルックスはいい方(そう女子達が言っていた)だし、成績も運動神経も園緑中の中ではトップクラスだった。
かといって、ガリ勉でもなく、一匹狼というわけでもなかった。
ただ、彼は何をしても全然目立たなかった。

この前の球技大会だってそうだった。同点のままの後半のロスタイム、自分の所に来たこぼれ玉を、ただ無心で前線に蹴った。
そしたら、クラスでもスポーツ万能でみんなに人気があった、服部竜司(男子14番)がうまい事ボール合わせて、ゴール。
その直後に、試合終了のホイッスル。クラスの女子達や控えの男子達がコートに入ってくる。
ああ、やっとみんなに認めてもらう活躍が出来た、と感傷に浸っていた俊介がふと我に帰ると、
誰も来ない。
他のクラスのみんなは、竜司の方に駆け寄っていた。
そんな…。何だよみんな。オレがアシスト(ただ前に蹴っただけの玉だったが)したのに…。
そりゃ、偶然かもしんないよ。でも、でも…。ちくしょう――。
駿介はその後の打ち上げにも参加せず、一晩中泣いていた。
今回だってそうだ。部屋決めのときに、たまたま1人あぶれていたからって…、何だか泣けてくる。

しばらくして、駿介はやけに静かだなと思った。
消灯時間から30分。見回りの先生も居ないというのに、全然廊下を移動する音などがしなかった。
おいおい、やけに大人しすぎるんじゃねえか? 疲れて眠りたいっていっても、それぐらいの元気はあるんじゃねえの?
そんな事を俊介が考えていた時、急に緊張を張り詰めた。
ドアが開いた…。そんな気がした。
確かめようと、ベットから右足を下ろした、その時。ドアの方からバタバタと音がして、黒い帽子に黒い背広を着た3人の男達が入ってきた。
そして男達はベットの前に立った。駿介は動く事が出来なかった。
男達の手にはピストルが握られていて、それが駿介への見えない鎖になっていた。
「兼代――、駿介だな?」男達の1人が言った。
「あ、ああ――」
「そうか…」
その男は少し息を吸って言った。
「じゃあ、しばらくの間、眠っていてもらおう」
「へ…?」
次の瞬間、男のピストルから、パシュという音がして、駿介がベットの下に倒れた。
何なんだよ。
いきなり、出てきやがって――。

そして、駿介の意識は消えた。



【残り40人】


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