1 混乱の中で




駿介はざわめきで目を覚ました。
ズキズキと頭が痛かったが、何とか生きているようだった。
――ここはどこだ?
そう思って周りを見回してみると。
――なんだこりゃ?クラスみんないるじゃねえか?
そこには、駿介のクラスメートが全員揃っていた。さらに、
――ん?この机の配置は・・・。
クラス全員が座っている『場所』。それは紛れもなく、3年4組の席順だった。そして自分も、窓側の一番後ろに座っている。1つ前には、まだ寝ている丹羽稔彦(男子13番) の大きな体が、自分の横には、突然の事にあたふたしている岩岬麻奈(女子2番)が、 そして斜めには、隣の杉山智恵(女子8番)と話をしている前河佑紀(女子15番)が、それぞれいた。
駿介はもう一回周りを見てみた。やっぱり全員(ケガで来ていない伊藤輝美は除くが)その部屋にいた。 しかも、その部屋というのも、前にはホワイトボードと教卓、造りはプレハブ小屋みたいだった。
「あれ?ここどこだよ!?」
「私たち、ホテルに居たんじゃあ・・・。」
「外見えないじゃん。」
「まさか、集団誘拐!?」
目を覚まし始めたクラスのみんなが、しだいに混乱し始めていた。
その時。
「席に着け!」
いきなり、前のドアから入ってきたのは、軍服を着た男だった。 頭は角刈り、背はピンとしている。まさしく、この国が薦める『正しい国民の例』にぴったりの男だった。
「静かにしろ!」
その『カタブツ』は、教卓に生徒名簿を叩きつけた。 訳の分からないうちに、こんなとこへ連れ込まれ、しかも『カタブツ』の登場でかなりざわついていた部屋内は、一瞬で静かになった。 静かになった所で、軍服の男はおもむろに黒板に何かを書き始めた。
『二三四 一』
何かの暗号か?と思った、その時。
「はい、私は共和国軍北千葉支部から来た、フミヨハジメだ。」
フミヨハジメ?さっぱり分からなかった駿介だが、思い出したように黒板を見てみると。 ああ、なるほど。あれは名前なのか・・・。変な名前だな。偽名なのかな?駿介は思った。
「今日は君達に最高な知らせを持ってきた。」
クラス中が、おお、という歓声に包まれる中、あいつは言った。
「君達は、『プログラム』に選ばれた。」

それは確かに最高の知らせだった。別の意味で。

――プログラムに選ばれた。 そんな事を聞いて、喜ぶ奴なんか1人も居なかった。
プログラム・・・、 それは、年に中学3年生50クラスに突然告げられる、『死の宣告』。 ランダムに選ばれたクラスが、どこかに隔離されて行う、『殺し合いゲーム』。 そのゲームで生き残った一人だけが親元へと帰れるという、『生き地獄』。 駿介は、よくテレビで生き残った生徒が車に乗せられている絵を見ることがあった。 その時の『生き残り』が見せる顔が、何故か笑っているのも覚えている。 何でだろ・・・。どうせ、笑うよう指示されてるんだろうけど、何でそんな事しなきゃいけないのかな。それが駿介の唯一の疑問だった。 でも、だんだん駿介にも分かってきた。要するに刷り込みってやつだ。 きっと、その生き残りに微笑ませて、あーあ、このゲームをやって人殺せたぜ、ということを、何も分からない次世代の戦士達に教えようという幼稚な伏線なんだな。駿介はそう思うようになっていた。 そして自分のことになると、当たんないだろ、どうせ、と開き直っていた。 これは全国の中学3年生が使っている手だろうけど、今の3年4組には、関係の無い話だった。 信じられないけど。
二三四の一言から、口を開く者は一人も居なかった。そんな様子を見て、二三四は続けた。
「そして私は、このプログラムの担当官に任命された。」
――んな事は誰も分かる。
「さて、プログラムについて知らないものは居ないだろうが、ここでルールについて説明する。ルールは簡単だ。一人になるまで殺しあってもらう。 方法は問わないが、こちらから武器を支給する。」
そう言うと、いきなりドアが開いて2人の兵士が、大量のリュックサックが入ったカゴを持ってきた。 二三四は、その一つを取り出して中身を教卓に広げた。
「いいか、これが、君達に支給するリュックだ。中には、水と、食料と、地図とコンパス、それに武器だ。」
そのリュックの中には、分厚い英和辞典があった。
「おっと、これはハズレだな。この他にも、当たり外れはあるからな。工夫して使えよー。 それから、地図の見方だが・・・。」
おもむろに二三四は、白いチョークで四角を描いて、黄色で網を張って、上にアルファベット、左に数字を振った。
「これが、ここの地図と思ってて欲しい。ちなみに、実際にこの島もこんな形をしている。そして、この黄色で囲まれた1マスを1エリアとして欲しい。 これで、『A-01』っていうと、一番左上だな。それで、出発から6時間ごとに行動範囲を狭めていく。例えば、7時に『B-05』に入るな、という風に放送で言います。 そして7時にそこに入ったら、死ぬぞ。」
ここで駿介に一つの疑問が浮かんだ。 どうやって殺すんだ?まあ、そこに兵士が居たとしても、見つからなければ安心なわけで、別にこんな事をしなくても――。 多分、クラスみんながそう思ったはずだ。
「そうそう、君達の首に付いているものだがな――」
そう二三四が言うと、駿介だけでなくクラス全員が首に手をかけた。 冷たい――。そう思って隣の岩岬絋美を見てみると。 首輪――?紘美の首には、銀色の輪っかが掛けられていた。他のみんなもそうだった。 その紘美は、そのまた隣の村下尚美(女子18番)と向かい合って、青ざめていた。
「おい!何だよこれ!?」
「やだ、首輪?」
「何で、こんなもんしてんだよ?」
「苦しい――」
部屋内が、うるさくなってきた。それを見た二三四は、
「下手にいじるなよ!爆発するから。」
また一瞬のうちに静かになった。全員が、――はあ?何言ってるんだ、この野郎――と言わんばかりに、二三四をにらみつけた。
「この首輪は、君達の心拍数を信号にして、ここの管理事務所のコンピューターに送って、君たちの生死を確認するものです。 しかし、無理にはずそうとしたり、立ち入り禁止のエリアに入ると、それが爆発します。だから、死にたくなきゃ、席に着け!」
その一喝で、全員首から手を放し、席に着いた。
「そして、24時間以内に死亡者が出なかった場合、全員の首輪が爆発して、優勝者無しです。ちなみに、優勝者には一生の安住権と総統のサインがもらえるぞー。」
――誰が、そんなもん欲しがるか。駿介は腹立たしくてしょうがなかった。
「じゃあ、ルール説明はここまでだ。それじゃあ、これから出発だが、不公平がない様にくじで決めよう。この中・・・」
「ちょっと待てよ。」
「ん?何だ?お前、池田・・・だったか。」
いきなり池田景太(男子3番)が、二三四の説明を切った。 池田景太といえば、ここら辺では有名な『ワル』だった。校内はもちろんのこと、高校生やヤクザまでもが恐れる存在になっていた。クラスの奴は怖がって、誰も近づこうとはしなかったが。
「伊藤はどうするんだ?」
全員がはっとした。確かに『不平等なく行う』には、ケガで入院している伊藤輝美(女子1番)も、ここに呼ばなくてはいけなかった。 最も、ここに連れてきても動けるわけはないだろうが。
「はっはっはっ、それなら心配ないぞ。おい!」
二三四がそう言うと、一人の兵士が、廊下から黒い寝袋を乗せたキャスターつきベットを持ってきた。そして、それは教卓の前に置かれた。
「君達!これを見るんだ。」
二三四がジッパーを開けた瞬間、前の方の席に座っている女子が悲鳴を上げながら、後ずさりしてきた。 何事かと後ろのほうに居る生徒達は立ち上がったが、すぐに悲鳴やうめき声に変わった。 その寝袋の中には、左胸を血だらけにし、口からも血を流し、半ば泳いだ目でみんなを見つめる、伊藤輝美の死体があった。


【残り39人】


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