2 ふざけたヤロー


すぐに、そこは地獄絵図になった。
パニック状態になった女子達は、悲鳴を上げながら泣きじゃくり、男子達は突然の事に、開いた口がふさがらない状態で固まっていた。
「おーい!静かにしろ!」
そう言っても、無理な話だった。プログラムだ、と言われてもピンとこなかった生徒達に、いきなりクラスメートの死体を見せつけられたのだから、怖がらない訳がない。
その時、二三四は懐からピストルを出して、それを撃った。威嚇射撃か、と思って前に目をやると、輝美の頭が無かった。
「お前らもこうなりたいか!」
二三四は首だけになった輝美を掴み上げて、言った。部屋内は静かになったものの、ものの見事にクラス全員が硬直した。そんな中――
「輝美ちゃん!」
止まった時間を再び動かしたのは、輝美の親友の近藤美穂(女子7番)だった。 美穂は輝美の元へ駆け寄ると、変わり果てた輝美に向かって激しく泣いた。
「こら、近藤!席に着け!」
そんな美穂に、二三四は一喝した。
「安達先生も・・・殺したの――!?」
顔を上げた美穂は、涙で汚れて、怒りを全面に出した顔で二三四をにらみつけた。 安達先生とは、3年4組の担任の安達弘明のことだ。 駿介は個人面談の時しか、安達と面と向かって話をする事は無かった(そこの席で、自分は何になりたいんだという質問に、体育の先生になりたい、なんて言ったこともあった。)が、 安達はクラスからはなかなか信頼されていた。 そういえば、居ない。まさか、殺されたんじゃあ――。とクラス中が心配した、その時。
「生きてるぞ」二三四は言った。
「安達先生は、みんながプログラムに参加する事に反対だったんだ。しかし、周りの先生方が止めたおかげで、殺される事は無かった。 そんとき、先生泣いてたなあ」
安達先生は新婚で来月に子供も生まれる、だから周りの先生も止めたんじゃないかな。駿介は思った。 どうにもならない状況に、泣き出す人も居た。

「おい、『これ』、片付けておいてくれ」
その二三四の一言で、輝美を乗せたベットが片付けられた。とその時。
「おい!待てよ!」
怒鳴りながら前へ出て行ったのは、日比野祐吾(男子15番)だった。 将棋部なんて、陰に隠れがちな部活に入っているものの、正義感は人一倍あった。 ただ、無謀な戦いをして、ケガを負うこともよくあった。いじめられている動物を守ろうとして、強そうな高校生3人に挑んでいったというエピソードは、ざらに耳にしていた。 そういえば、輝美とこの佑吾は付き合ってるなんてウワサもあったような気がした。
「どういう事だよ!人撃っておいて、『これ』はないだろ!」突然、佑吾は二三四に掴みかかった。
「敗者は敗者だ。別にどう扱おうが勝手だろう」
「畜生!」
確かに、許せるような行為ではなかった。でも、相手が武器を持っているから、誰も飛び出せずにいた。
「さあ、手を離せ。日比野」
「ふざけるな!」
次の瞬間、佑吾の拳が二三四の頬をとらえ、ふっ飛ばした。そして、飛ばされた二三四が当たったホワイトボードは、べっこりとへこんでいた。 多分、歯の一本は抜けていると思う。
「この・・・、やりやがったな・・・」
「この野郎!」
佑吾がもう一発お見舞いしようとしたその時、佑吾の動きが突然止まった。駿介は佑吾の首元を見てみると、首輪が無い。 代わりに、首から大量の血が噴きだしていた。 一同は戦慄した。目の前で愛する彼女のために勇敢に戦った仲間の首から血が! 間もなくして、佑吾は床に倒れた。その生死を判別する必要は、もう無いだろう。 倒れた佑吾の後ろから、二三四が何かスイッチを押しているのが見えた。
「ふふふ、これはお前らの首輪の爆破スイッチだ。私に逆らうとこうなるのだ」
もう誰も、この理不尽な殺人を繰り返すカタブツを殴る事など出来なくなってしまった。

「――ふん。無力なくせに、楯突きやがって」
二三四が、佑吾の首をつま先で蹴った。 何人かの生徒が、あまりにも酷い仕打ちに顔を強張らせた。駿介もその一人だった。
駿介の脳裏に浮かんだのは、昨日の夕方の頃。コンビニで買い物をして、帰る途中だった。 何か声がしたと思って、ふと横を見ると、そこには、裏路地で高校生らしき男達が数人で固まっている。 その様子をよく見てみると、どうやら、男達が周りを囲んで誰かをボコボコにしているみたいだった。時々殴りや蹴りを入れているのが分かる。 どうしようか?助けに行くか?でも、さすがにあれだけの数は、ちょっと――。 駿介が迷っていると、男達が裏路地から出てきた。ずっと覗いてた駿介には、気付かなかったようだ。 裏路地には、ぐったりした人が一人残された。駿介は急いで駆けつけると「大丈夫か?」と声を掛けた。 駿介がよく顔を見てみると、それはクラスメートの日比野佑吾だった。
「う・・・。君は・・・?」佑吾が言った。
クラス全員の顔ぐらい覚えとけよ、と駿介は思ったが、「兼代だよ。同じクラスの」と言って、佑吾の手を引っ張った。
「あ、ああ。ありがとう――」
「何があったんだ?」駿介が訊いた。
「ハハハ・・・」佑吾は苦笑いをした。
「いや、ここであいつらに絡まれてる女の子が居たから、『やめろよ』って言ったら殴られて――。女の子は逃げられたみたいだけどね」
「そうか――」駿介は俯いた。
その後、駿介が「救急車呼ぶか?」と訊いたが、「ううん。こんな事は、しょちゅうだから――」と言って裏路地を出て行った。
誰に相手にされなく、誰も友達が居ない駿介でも、正義感が強い佑吾の姿を見て、これ以上の我慢はできなかった。 ふざけるな!このカタブツ野郎!目の前で人の死体見せつけて、しかも、死ぬかもしれないっていうのに、飛び出していった奴を殺すだなんて・・・! この野郎!もうタダじゃおかねえぞ! もしかしたら、駿介も飛び出していって、そして見事に首をふっ飛ばされるか、ハチの巣にされて、早々に15年の人生に終止符を打つかもしれなかった。
しかし、そんな駿介を止めたのは、服部竜司(男子14番)だった。 竜司は、駿介の胸の前に手を出して、『お前も行くな、死ぬんじゃない』と小声で言った。 駿介は不本意ながら、込み上げてくる気持ちを押さえた。
こうして、もう一人の兵士によって、佑吾の死体も片付けられ、全員が席に着いた。
「さて、ちょっとアクシデントがあったが、これからみんなに出発してもらう。全員、自分の荷物と、出口でもらうリュックを持って、出ていって欲しい。 なお、全員が出発してから10分後に、『プログラム実行本部』のある、管理センターは立ち入り禁止エリアに入る。破壊してこのゲームを止めようとすると、死ぬぞ!」
ちょっとどころじゃない。2人の死体を見せられて、どこがちょっとなのだろうか。駿介にまた、カタブツに対する復讐心が沸き立ったが、すぐに抑えた。 そうだ、服部に止められたんだ。死にに行くなって――
「それでは、最初に出て行く者を、このくじで決める。」
二三四は、箱の中を手探り始めた。そして、赤い札を引き当てた。
「女子7番、近藤美穂!」
呼ばれたのは、先程、伊藤輝美の前に駆け寄った近藤美穂だった。 美穂は小声で、はい、と言うと、ゆっくり前へと歩いていった。 教卓の前で、二三四に向かってしっかりにらんでいった。 本当は、親友を殺し、目の前で人を殺した二三四を許せずに、捨てゼリフでも投げ捨てていきたかったのだろうが、 『反抗=日比野佑吾の二の舞』という、最悪の方程式が成り立っている今、そんなことも出来ずに、リュックを受け取ると、美穂は下を向きながら、部屋を出て行った。
「次からは、出席番号順に、男女交互に続いていくからな。だから次は、男子8番の川堀だ」
出席番号順に男女交互か、ってことはオレは一番最後か・・・。駿介は考えていた。

それから後は、どんどん進んでいった。 部屋を去るときに、泣きながら出て行くもの、平常心で出て行くもの、そして、もう壊れてしまったのか笑いながら出て行くものもいた。 そして、女子6番の小西彩が出ていって、部屋には駿介と二三四だけが残った。駿介が出て行くまであと2分あった。
「兼代」突然、二三四が声を掛けてきた。
「何だ」
「因果な奴だな、お前も…」
「え?」
駿介は一瞬驚いたが、
「どういうことだ」
「ふん、お前が優勝したら教えてやるよ」
「何だと・・・!」駿介は立ち上がった。
「まあまあ、怒るな。お前の時間だ」
そう言うと、二三四は支給リュックを投げてよこした。
「答えが知りたきゃ、優勝するんだな」
そんな、人を見下したような言葉を振り払うように、駿介は部屋を飛び出した。

駿介は、外に出てみて驚いた。 その部屋から一歩出ると、足元は黒いアスファルトの道路、目の前にはうっそうと茂る木々、そして、深く暗い闇。 駿介たちが連れ込まれたのは、学校みたいな建物ではなく、臨時に置かれたプレハブ小屋だった。 そして駿介が少し気になったことは、誰もいない――。 確かに、目立たなく、友達もいない駿介に、待ち人なんかいない事は分かっていた、 それでも、仲間を増やすために誰かいるんじゃないかな、と想像していたが、 どうやら、もう手頃な仲間を見つけたか、怖くて一人でどこかに行ってしまったようだ。 あまりの現実の厳しさに、呆然と立ち尽くしていた駿介だが、 とにかく、移動しなきゃと思い、横に走る道路を右に駆けていった。

――こうして、また、『殺人ゲーム』がスタートした。


【男子15番 日比野佑吾 死亡 残り38人】



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