3 そもそもの間違い(1)


兼代駿介が駆けていった右とは違う、真っすぐの方向には、森があった。 そこから少し入ったところに、丸太の小屋があった。 その扉の前にはマシンガン(UZI−SMG)を持った、大越祐美(女子4番)が座り込んでいた。 学年で一番背が高く、女子の中ではかなり体が大きい祐美だが、その顔は引きつり、その大きな体もダンゴムシのように小さく丸まっていた。
「祐美〜!」
突然の声に、祐美は銃を構えたが、すぐに降ろした。 森の方から出てきたのは、寺田潤子(女子11番)小西彩(女子6番)だった。
潤子はプレハブ小屋が見える草むらに隠れて、仲間になってくれそうな女子を、この森の小屋まで引っ張り込んできたのだった。
「潤子!」祐美の顔に笑顔が戻った。
「何とか、小西さんだけ連れてこれたよ。中、入らない? 見張りは中からでも出来るし――」
「そうね。そうさせてもらうわ」

3人が小屋の中に入ると、そこには、成島佐知子(女子13番)早野葉月(女子14番)がいた。
「お帰り、潤子。――小西さんも一緒なのね?」
佐知子は、微笑みながら言った。
「うん。でも、こんだけしか集まんなかったね――」
「しょうがないよ」祐美が言った。
「運が悪かっただけだよ。潤子のせいじゃない。また、みんなとも会えるよ」
「うん――。そうだね!」
全く、立ち直りだけは早いんだから――。祐美はため息をついた。
でもそれが、あんたの長所だよ。 あんたって、勉強も出来たし、バスケもうまかったけど、アンタ、結構ドジだったよね。 重い荷物持って、よろけて、んで結局廊下のガラス割っちゃったり、 文化祭の打ち上げの時に、間違ってジュースを頭から掛けちゃったり(ちなみに被害者は兼代くん。)――、 まだまだあるけど、そのたびに一緒に頭下げてきたよね。謝った後も、『あーあ。まーた、やっちまいました。』って反省の色、全然なかったよね。 ――本当、あんたといると、退屈しないよ。 祐美は心の中でぼやいた。

4組の女子は、あまりグループを組まず、そのほとんどが潤子を中心とする『女子中間派』に属していた。 潤子がプレハブ小屋を出発したとき、初めは怖くなって飛び出してしまったが、仲のいい女子を集めれば、何とかなるかもしれないと思い、プレハブ近くの草むらに隠れた。 おかげで、友原香代(女子12番)を、スルーしてしまったが、何人かの男子をやり過ごし、佐知子と葉月を仲間に加え入れた。 しかし、次の前河佑紀(女子15番)は、別のところで隠れていた杉山智恵(女子8番)と合流したものの、 佑紀は潤子たちとの合流を拒んで、森の奥へと逃げ去ってしまった。智恵もそれを追いかけて、森の奥へと消えていった。 そして、丸山時子(女子16番)を誘うかで意見が割れて、三好知葉(女子17番)を見過ごしてしまい、 村下尚美(女子18番)北嶋由香里(女子5番)は、会いたい人がいると言って、立ち去ってしまい、 岩岬絋美(女子2番)梅田昭代(女子3番)は、人と一緒にいるのが怖いのか、脅えて何処かへと行ってしまった。 潤子より先に出発した、近藤美穂(女子7番)出口枝里(女子10番)には、まだ会ってさえもしていない。 結局、集まったのは祐美と彩を加えた5人だけだった。
「そういえば、麻未ちゃんは誘ってないの?」
佐知子が不意に矢野麻未(女子20番)の名前を出した。彼女も前までは女子中間派『だった』のだが。
「うん。ちょっとね――」
潤子は苦笑いをしながら、黙ってしまった。

「――高柳さんには、声掛けなかったんだ」祐美が訊いた。
「――やっぱり、苦手意識あるからね」潤子は俯いた。
4組女子の唯一のグループと言えるものは高柳鈴子(女子9番)を中心として、側に付いていた丸山時子柳原由紀(女子19番)の3人がそうだ。 鈴子自身、首都圏では5本の指に入るという資産家のお嬢様で、腰までありそうなロングヘアーに、狐のような細い目は、いやでも高貴な感じを出していて、他の女子は敬遠気味に彼女を見ていた。 そして何時の間にか、時子と由紀が鈴子の周りにいるようになっていた。
多分、高柳さんはこのゲームに乗って、容赦なくクラスメートを殺す――! そんな危惧が潤子の中にあった。 先程、時子に声を掛けようか意見が分かれたのは、そのためだった。

「――でも、何でこういう事になってしまったんでしょうね――」 葉月が呟いた。
「仕方ないよ。選ばれちゃったもんはさー…」
佐知子が笑みを浮かべて返した。
「あーあ、明後日はコミケの日だったのに…」
葉月が俯いた瞬間、佐知子は吹き出してしまった。
「――葉月ぃ。あんた、まだ、諦め切れなかったんだ」
「だって…、あれ、自信作だったのに――」
葉月はまた、黙り込んでしまった。

声も気も小さい、容姿も身長もまるで小学生、そんな『超』が付くほど内向的な性格だった早野葉月の唯一の特技、それはマンガを描くことだった。 その画力は、他の女子を圧倒させてしまうほどのもので、気が付けば、同人誌の世界で高い評価を得るようになるマンガ家になっていた。 (断っておくが、葉月の書くマンガは、18歳未満でも読める恋愛ものだった) そして、明後日はコミック・マーケットの日。そこで販売するマンガの原本を机の上に置いたまま、修学旅行に出かけたのだが――

「でもさー」佐知子が言った。
「私だって、諦めてないんだよ? 祐美のこと」
「えっ…?」
「ほら。あんたの事、バレー部に誘おうとしたじゃん」
ああ、そんな事もあったっけ。
佐知子は155cmとあまり身長は高くはないが、強烈なスパイクを武器に、2年生からレギュラーを張っていた。 長身の祐美は、そんな佐知子から勧誘を受けていた。そして断っていた。 ちなみに祐美は今でも帰宅部だった。
「――そうだったよね。でも、私、運動オンチだよ?」祐美が答えた。
「ああ、それなら大丈夫。私が祐美に一生懸命練習させるつもりだったから」
「もう…。佐知子ったら――!」
言葉では怒っていたが、表情は微笑んでいた。

「輝美ちゃん、もう、居ないんですね…」
話題が無くなり小屋の中が静かになった時、葉月が呟いた。全員が葉月の方を見る。
「葉月、あんた何言ってんの?」潤子が訊いた。
「だって、いつもこのメンバーでいたら、あの人は必ず居たじゃないですか。何か…、居なくなったって気がしないんです――」
葉月は体育座りのまま、俯いて泣いていた。 輝美のことが祐美の頭をよぎった。
輝美、死んじゃったのね。昨日、お見舞いに行ったときは、「大丈夫大丈夫。死ななかっただけ、まだマシよ。」って言ってたのに。ウソツキ――。
祐美の目に涙が光った。
あんたと一緒にいれて、本当に良かったよ。みんなと居れて幸せだったよ。 でも――、みんな死んじゃうんだよね? 一人残ったとしても、もう、このメンバーで笑い合ったりすることなんてなくなるだよね。 もし、私一人が残っても、私――、生きていけない――。
祐美の涙は止まらなかった。

しばらくして、祐美が涙を拭いて目を開けた時、眼前には大人しく床に座る彩が居た。 ここで祐美の頭の中にに、ふとある疑問がよぎった。
小西彩は、どうなんだろうか――。



【残り38人】


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