5 そもそもの間違い(3)



羨ましいと、いつも思った。
いくら怖い男子でも、積極的に話し掛けていった。
いくら内向的な女子でも、気軽に声を掛けて友達の輪を広げていった。
輝美と一緒に場を盛り上げて、私たちを楽しませてくれた。
よく私と同じ「顔は中くらい」と言われるけれど、彼女は私より輝いていた――


―――――――――――――――――――――――――――――


祐美は血まみれで倒れている佐知子を見て愕然とした。
さっきまで元気に話してたのに――!?
先ほどまで、潤子と言い争いをしたせいか顔が真っ赤になっていたが、今はすっかり青ざめている。言うまでも無い。もう死んでいる――
さらに小屋の中に月の光が入ってきて、あまりに突然の状況に腰を抜かして壁にへばりついた祐美の目に、奇妙な画が映った。 小屋の真ん中あたりに人が立っているが、右手に何か持っている。銃だろうか?そして――
人の首――!?
今はシルエットしか見えないが、確かにその左手には人の頭部らしきものが見えた。 しかもそれは――、いや、まさか…!?

さらに光が入ってきて、小屋全体が見えるようになった。
そして目の前の光景に祐美は愕然とした。
「は、葉月――!」
横で束ねられた長い黒髪、子供っぽい顔立ちの生首は、正しく早野葉月のものだった。
「な、何でこんな…」
「祐美…」
潤子――!?
何処からか潤子の声がした。祐美は急いで周りを見渡してみた。すると右側の壁に、胸を血だらけにして息が荒い潤子が寄りかかっていた。佐知子と違って急所には当たらなかったみたいだ。
「じゅ、潤子!」祐美は急いで潤子の元へと寄り添った。
「逃げて…、祐美…」
「え?」
息はあるものの、危険な状態の潤子の声は消えそうだ。
「な、何言ってるの? 潤子を置いて逃げるなんて事出来ない!」
潤子を揺らす祐美の目には涙が光っていた。

「あら、結構泣かせる台詞言うじゃないの」
その言葉に祐美は固まった。その声、まさか――
祐美がゆっくり後ろを向くと、そこには一人の少女が立っていた。葉月の頭部を掴みながら。さらに、そのまま目線を上げてみると――
「こ…」祐美は青ざめた。
「小西…さん?」
2人の前に立つ彩は、先程の眼鏡少女ではなく、口元に笑みを浮かべ、右手にイングラムM11(サイレンサー付で、葉月の支給武器)を装備した完全なる『悪魔』だった。
「随分長い間屋根にいたのね。でも、おかげで助かっちゃった」
そう言うと彩は葉月の首を何処かへと投げ捨てた。
「葉月!」
「さあて」
彩はイングラムを構えた。
「残りはあなた達だけね」
祐美は完全に動けなくなっていた。左手に握ったUZI−SMGのことも忘れている。 もうダメか、と思って、祐美が目をつぶった、その時、
「やめて!」
潤子が渾身の力を振り絞って彩の足に抱き付き、彩の体を倒した。その隙に潤子は馬乗りになってイングラムを奪おうとしている。彩も奪われまいと必死に抵抗する。
「逃げて!」
「えっ…」
突然のことに呆然としていた祐美は、潤子の一言で我に返った。
「でも…」
「早く!私だけじゃ無理!」
潤子が血を吐いた。
「そんな、2人いれば…」
「いいから早く!」
潤子の言葉で、祐美は小屋のドアから外へ出て、一目散に森のほうへと走った。

嫌だ! 潤子が死ぬなんて、嫌だ! 生きて! 生きてまた会うんだからね、潤子! 死なないで――!

祐美の姿は、あっという間に森に消えていった。

一方小屋の中、立ち尽くした彩の目の前には、ぐったりと倒れ血の池を作っている潤子がいた。
結局、満身創痍の潤子を彩が力尽くで突き放し、イングラムから弾を発射させた。それで全てが終わった。
「ふう…」彩はため息をついた。
「残念だったわね。夜の私は、こんな仲良しごっこなんて、やってらんないのよ――」
彩は小屋にあったリュックを漁り始めた。
本当は押さえている間に大越さんが私を撃てば良かったのに、やっぱりあなたは最後まで人を殺すことに抵抗があったみたいね。そんな事はさせなかった。そして親友だけでも逃走させた。さすがね、寺田さん――
でも、そもそもの間違いだったわね。だってもうすでに『やる気』だった私を迎え入れちゃったんだもの――
必要なものを自分のリュックに入れた彩は、すぐに小屋から出て行った。
自分が殺した少女たちには目もくれずに。

【女子11番・寺田潤子
 女子13番・成島佐知子
 女子14番・早野葉月   死亡】

【残り 35人】


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