6 変わらない2人


プレハブ小屋からすぐにある、うっそうと生い茂る雑木林、中から聞こえてくるのは、鳥か獣の声のみ――
そんな中、村下尚美(女子18番)は身をかがめ、体の4分の3以上を、雑草に隠していた。
怖くない…それを言ったらウソになる。けど――、ここに来るしかない。尚美はそう考えた。

プレハブ小屋を出た後、いきなり寺田潤子(女子11番)が駆け寄ってきて、
「ねえ、尚美。一緒に来ない?なるべくたくさん集めて、まとまろうと思うんだけど――。あ、女の子しか集めないから安全よ」
別に潤子の優しさが分からない訳じゃなかった、気持ちも分かっていた。でも――
「私、会わなきゃいけない人がいるの。ゴメンね――」
そう言って別れた。

そして、その後尚美は、この森に入った。 何だか『あの人』がいるような気がする、胸騒ぎがする――。 そんな衝動にかられ、現在も尚美はここにいる。

しばらく進んでいくと、前に明かりが見えた。恐る恐る近づいてみると、たき火のようだった。誰だろうと思い、近づこうとした、その時。
パキッ、と音がした。
次の瞬間。尚美の側にいた、鳥の群れが一斉に飛び立った。
マズい。枝を踏んじゃったみたい――
尚美は、手にあったバタフライナイフを、再びギュッと握りなおした。 これでも、何か役に立ってくれるかもしれない――

ガサガサ、音がする。誰かが来ている。尚美は全身を草むらに隠した。 誰なんだろ。女子かしら。だったら、話も出来るんだけど――。ううん!油断しちゃダメ!一瞬でも遅れたら、殺られるかも――!
尚美は冷静だった。
別に運動部に入ってるわけでもないし(むしろ文化系――写真部だが)、そんなに運動神経がいいわけでもない。しかし、土壇場になっても、常に冷静だった。それが尚美の取り得だった。現に、下校途中に下心丸見えの高校生に囲まれても、落ち着いて相手の急所にハサミを投げつけて、猛ダッシュで逃げた。なんてこともあった。
とにかく、相手が誰だか見てみることにした。
ガサガサガサ―― 
音はだんだん大きくなっていく。夜の闇の草むらに隠れていたので、相手から尚美の姿が見えることは、まず可能性が低かったが、相手が松明(たいまつ)らしき物を持っていたため、相手の姿が見えない尚美でも、その位置はバッチリ掴めた。(多分、そこら辺で拾ってきた長い枝に、布を巻きつけて、火を燃やした代物だろう。バカねえ――、位置まるわかりよ。)しばらくして、火が止まった。
おそらく、火の明かりを頼りに周りをキョロキョロしてるんだわ。尚美には、相手の行動が不思議なぐらい分かっていた。
そして、相手が言った。「気のせいかな――」
尚美は耳を疑った。なんせそれは自分が探していた『あの人』の声に、そっくりだったから。
そして恐る恐る、顔を草むらから出した。やっぱり相手はたいまつの火で、周りを探していた。しかし、尚美は目を丸くした。 見覚えのある園生緑地中の野球帽、坊主頭、それに、ほっぺたのホクロ――。間違いない、『あの人』だ――! 思わず尚美は立ち上がった。
その時後ろを向いていた相手も、突然の物音に慌てて振り返った。が、尚美を見た瞬間、相手はまるで金縛りにでもあったかのように、固まってしまった。
ほんの少しの空白の時間の後に、尚美は言った。
「ヨッシー!」
尚美が探していた『あの人』――ヨッシーこと福島芳次(男子16番)は、その言葉に硬直が解けた。
「ナオ!――全く、心配掛けやがって」

芳次と尚美は幼なじみだった。
昔から家が近所で、幼稚園も小学校も中学校も一緒で――、まあ、公立のクラスには必ずいるだろう、というような2人だった。普通だと、中学生になってから、相手の事を気になり出して、なかなか話すことが出来ない――、なんて事も起こるんだろうが、この2人には、無縁の話だった。いつも、仲良く無礼講に話してたし、未だに給食の多い少ないでケンカはするし、昼休みのグラウンドの取り合いで、2人のケンカは日常茶飯事だし――、要するに、このカップルに恋の予感などというものは、全然無かった。

「よかった。ヨッシーに会えて――」
尚美が芳次に駆け寄った。
「ああ、オレもだ」
芳次は構えていた銃(AK74アサルトライフル)を降ろした。 「とりあえず、アジトに来るか? 男ばっかりで、むさ苦しいけど」
「うん。なんか1人じゃ、顔が強張っちゃって――、疲れた」
「女みたいなこと言うなよ」
「失礼ね!」
「あははは――」
こうして2人は、たき火の方へと向かっていった。

【残り 35人】


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