7 ゴメンね――


「おっ、来たか、芳次。――って、あれ? 村下?」
安藤博史(男子2番)は、尚美の姿に少し驚いたようだった。

芳次、博史、そして川堀雅司(男子8番)の3人は、森の中で出会い、そのまま固まって行動する事にした。
普段はこの3人で一緒に行動している。 博史は格好はいい(でも、服部竜司には負ける。)けど、少しプレイボーイ的なところがあって女子には人気が無い。 そんな博史と一緒の塾にいて仲良くなった芳次、 そして、結構お調子者で、理科の成績がいいことが目立つ、博史の小学生からの親友の雅司、という仲良し3人組だ。
最近だと芳次の野球部仲間の酒田敬(男子10番)も、一緒にいることが多いが、今、彼の姿は無い。

「村下、武器を出してみろ」博史が手を出した。
「おいおい、尚美は裏切るようなマネなんか…」
「いいの」説得する芳次を尚美は止めた。
「私を疑ってんでしょ?だったら、気が済むまで調べてみれば?」
「――わかったよ」博史はそっぽを向いた。

「やあ、村下さん。いらっしゃい」
たき火のそばで、雅司が尚美を呼び止めた。
「博史のことは気にすんなよ。あいつ、ここに来てからずっとああなんだ」
そう聞いて、尚美が横を見てみると、こっちを向いていた博史が、フンと言いながらまた違う方を向いた。
「しばらくはここに居た方がいいよ。みんなで居ればとりあえず安全だから――」
いつもは調子よく、へらへら笑っている雅司が、ここまで生気の無い声になってる――。恐ろしいわね。この『殺し合いゲーム』って――。尚美はそう思いながら、真上の星達を見ていた。きれいだった。残酷にも。

しばらくして、4人は交替制で眠ることにした。2人が寝ている間、他の2人が見張りをする、という事になった。始めは博史と雅司が眠りについた。そして芳次と尚美はそれぞれAK74アサルトライフルとUSP(大きくて使いにくいピストルだけど、じきに慣れるだろ、と、博史が尚美に持たせたものだった。)を持って、たき火のそばに座っていた。ちなみに雅司の支給武器は、よく散歩に出かけるおじいさんが使いそうなステッキだった。持っていてもしょうがないので、そのステッキは雅司の荷物のそばの木に、立てかけてあるだけだった。
1回の見張り時間は1時間。そのうちの10分が過ぎたが、見張りの2人は一言もしゃべらなかった。
そして、 「なあ、尚美――」
芳次が退屈しのぎにか、しゃべりだした。
「なに?」
「オレたち――、修学旅行に行くはずだったのに、とんでもない事になっちゃったな――」
「そうだよね――」
尚美が空を見上げながら、答えた。
「今年中3だから、来るんじゃないかなーって思ってたけど、まさか、こんな時にね――」
「オレも、これが夢じゃないかなって思ってたんだけどな――。でも――、目の前で死体見せられて、これが現実なんだなって思うしかなかったよ――」
「輝美――」
尚美の頭の中に、伊藤輝美のことがよぎった。
いつも明るくて、笑顔しか見たことがなかった――。なぜか輝美が笑うと、他のみんなもつられて笑っていた。それが――、あの時――
目はパッチリ開いていたけど、口から血を出して、何か"信じられない"って言い出しそうな顔をしていた。
ナンデ――?
何で、あんないい子が殺されなきゃいけないの?
何で、私たちから何もかも奪おうとするの?
何で、私もヨッシーも死ぬかもしれない恐怖を感じなきゃいけないの――?

いつのまにか尚美は、体育座りのまま、頭を両足の間にうずめ、明らかに体が震えていた。
「どうしたんだ?尚美――」
その様子にびっくりした芳次が、たまらず声をかけると、尚美はしばらくして泣きじゃくった顔を上げた。
「ゴメンね――」
「え――?」
「私、怖い――」
「尚美――?」
芳次はそれ以上掛ける言葉が無かった。
幼なじみの芳次でさえ、尚美が泣きじゃくったり、弱気な事を言うなんてことは、一度も見たことが無かった。それだけ、尚美は気が強かったという事だったのだが。
「私、さっきまで大丈夫だって言ってたけど――、全然ダメ――。あたし――、私、死んじゃうってこと考えただけで、とっても怖いの――。ねえ、ヨッシー。私、どうしたらいいの――!分からない――!」
尚美の目から、涙が次々こぼれてきた。
「心配すんなよ、尚美」
「え――。」
芳次の言葉に、尚美の行動が一時停止された。
「オレが付いてる。今まで頼りなかったけどよ。女の子が泣いてるそばで、情けない事なんて言えないしよ、それに、オレはもう中3だぜ?女の子一人守れないほど、堕ちてなんかねえよ」
尚美の目から、涙が引いていった。
今まで尚美にとっての芳次は、ただの野球少年でしかなかった。いざと言う時は自分が前に立つ、なんて事の方が多かった。
でも、今は違う。
今、必死に私を助けてくれようとしている。ただ泣いてばかりいる幼なじみを――。
「ありがとう、ヨッシー」
それが私が掛けられる精一杯の言葉。
「どういたしまして」
そんな気持ちを察してか、芳次も軽く返した。

そして、見張りは続く。残り時間30分。
たき火の向こう側では、博史と雅司が寝息を立てている。


【残り 35人】


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