12 Which do you hope , dead or alive ?(1)






「潤子――」
村下尚美(女子18番)は、ベンチで膝を抱えながら体育座りをしていた。
ここは島の北の端。地図で言うとC−01となる場所に、尚美と福島芳次(男子18番)が居た。
遠藤浩樹(男子4番)に襲われた彼らは、必死でここまで逃げてきた。 そして着いたのは、かなり高さのある切り立った崖。さらに崖の上にはポツンと一つ置かれたベンチ。 走り疲れた彼らは、そこに座って休憩していた。ちょうど、その時だったろうか。その放送があったのは――

「何で、死んじゃうの――?」
あの定時放送に、2人ともショックを受けた。
目の前で殺戮が行われたので、やっぱりとは思ったものの、芳次にとっては雅司と博史の死についてはかなり落胆していた。 もしかして、あいつ等にはまだ息があって、あの場から逃げられたのかもしれない――。 逃げる途中、芳次はそんな期待を持ったが、さっきの放送で期待は完全に裏切られた。
尚美の方は、もっと深刻だ。何せ序盤で女子中間派のリーダー格が次々と退場していったのだから。 この場合、誰が死んでもショックだろうが、特に仲が良かった者を失った尚美にとって、それは余りにも酷な知らせだった。 放送が終わった直後、尚美は泣き叫んだが、涙が枯れたのか、今は呆然と目の前の海を見つめている。
一応、死亡者と禁止エリアは書き留めたものの、放送のショックで2人はその場を動けないでいた。

「――葉月と佐知子も」尚美が突然口を開いた。
「呼ばれてた。潤子と一緒に居たのかなあ――?」
「さあ」芳次が答えた。尚美は続ける。
「潤子、出発地点で人集めてた。多分、2人とも潤子に付いて行ったと思う。でも…」
尚美は顔を上げた。
「でもそうしたら、祐美や由香里は? あと香代とか佑紀とか知葉とか…、みんな、どこ行っちゃったの?」
大越祐美(女子4番)、北嶋由香里(女子5番)、友原香代(女子12番)、前河佑紀(女子15番)、三好知葉(女子17番)…。 ああ。みんな、中間派の女子だったな――。芳次は思った。
そういえば、何処行ったんだろ――? 特に大越さんなんかは、伊藤さん(伊藤輝美【女子1番】)と寺田さんのツッコミ役みたいなもんだから、寺田さんに付いて行ったんじゃないか? まさか、仲間割れが起きて――? …いや、そのことを尚美に言うことはよそう。いくら仮定だって言ったって、仲がいい女の子同士の殺し合いなんて…、考えたくも無いだろうな――

「でもさ」芳次が言った。
「北嶋さんは、竜司と一緒に居るんじゃないか? あの2人、幼馴染だし」
「そう…かもね」尚美は答えた。依然として、元気が無い。
そうだ。竜司(服部竜司【男子14番】)だったら、人気があるし、かっこいいし、結構頼りがいがあるから、きっと北嶋さんだって探しにいったんだろうな。――もっとも、そうだとしたら寺田さんの誘いは受けなかったことになるから、助かったのかもな。





「ヨッシー…」
尚美が芳次を呼んだ。芳次が振り向く。
「私、もうダメだよ――」 芳次は驚いた。
「早く、潤子たちの元に行きたい」
「えっ…?」芳次が慌てる。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何言ってんだ、お前!?」
芳次が尚美の両肩を押さえる。相変わらず尚美の顔に、生気は無い。
「私…」尚美は涙を浮かべた。そして、言った。
「私――、死にたい――」
「な…」
芳次の力が抜けて、尚美は地面にずり落ちた。
「私、何とかなると思ってた。ヨッシーや潤子たちが居れば、こんなプログラムなんて抜け出せるかと思ってた。でも…、輝美も潤子も他のみんなも…、もう逢えなくなっちゃった――。そしたら私も、何も出来なくなっちゃった…。弱すぎるよ、私――」
尚美は立てなくなっていた。
しばらくその場に静寂が訪れる。

「――ふざけるなよ」
芳次の言葉に驚いて、尚美が顔を上げる。芳次の顔が、怒りに染まっている。
「ふざけるんじゃねえよ!」
芳次が尚美の胸ぐらを掴み上げる。尚美が驚いて、目を丸くする。
「何が『死にたい』だよ! 今、お前が死んだところで、死んだ奴らは喜ぶのかよ!? オレはそう思わない!」
芳次が手を離す。尚美は力なくベンチに腰掛ける。
「――寺田さんだって、お前が生きていることを望んでいるはずだ。お前が、みんなが死ぬのを望んでないみたいにな。それに…」
芳次は落ち着いて、言った。
「オレはお前が死ぬところを見たくない。だって、10何年間一緒に居たんだぜ? 身近で生きてるのが当たり前だったろ? そんな幼馴染の死体なんて…、見たくないんだ――」

しばらく2人は無言だったが、尚美が「ヨッシー…。ゴメンね――」と小さい声で言うと、「いいさ」と芳次は返した。

数分後、崖の上に2人の姿は無かった。
芳次が突然荷物をまとめて、森の奥へと入っていったのだ。慌てて尚美が追いかけると、芳次は「ちょっと移動するぞ」と言って、再び真っ暗な森の中を歩き出した。
移動する最中、尚美はふと考えた。
そうだ。ヨッシーだって、安藤君や川堀君を目の前で殺されて、とっても嫌だったんだ。 それでも気丈に振舞っていたのは、自分や私の身が危険になるから――。 それなのに私は、泣き言ばっかり言ってて…
尚美は芳次から離れまいと、必死に小走りに後を付いて行った。



【残り31人】



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