14 即席同盟(1)


「――おい。あれって、吉崎じゃないか?」
「ん? ――ああ、本当だ」
ここは森の中。その茂みから様子を見ている2つの影が、ある人物の姿を捕らえていた。


吉崎望(男子20番)。中学3年生なのに、145cmしかない身長と、不思議と似合っているメガネ。
まさしく彼は、『優等生』を具現化したものだった。
それを証明するかのように、中学に入って以来、望が定期試験の上位者から外れた事はないし、 授業中にいきなり難しい応用問題を出されても、すらすら解いていた。 もちろん、その頭の良さを恨むものもいたが、望が、別にその事で媚びることも無かったため、彼の周りの環境は平和だったのだ。 ただ、いつも独りで行動していたため、友達はおろか、話し掛けてくるクラスメートなんか誰もいなかった。 そこら辺に関しては、小西彩や兼代駿介などと同じと言える。
今、その望は、必死に支給されたリュックを漁っていた。 その表情は、不安と焦りが入り混じっている。 そしてしばらくして、望が取り出したのは、拳銃――グロック19だった。

「やべえぞ。あいつ、銃持ってるぞ」
茂みから見ていた片方の影――久納謙二郎(男子9番)は、望の拳銃を見た瞬間、汗がどっと噴き出してきた。
元々、気が小さく、アイドルおたくと呼ばれてる謙二郎にとって、このゲーム自体が恐怖だったが、隣にいる中村幸司(男子12番)と合流して以来、すっかり安心しきっていた。
その幸司は俗に言うアーミーマニアというやつで、自分の好きな武器を語らせたら、1日あっても足りないほどだ。
謙二郎と幸司は親友だった。 休み時間には、2人で意見交換(美少女ゲームで、あれやこれやと…)をしていた。 時々、服部竜司(男子14番)たちが、興味を持って、話に入っていく事もあったが。

このゲームが始まった直後、謙二郎はプレハブ小屋付近で身を潜めていた。 そして寺田潤子(女子11番)が出て行った後、出てきた幸司に声を掛けて、合流したのだった。
その幸司は、焦っているどころか、かなり落ち着いていた。しかも、その顔に笑みを浮かべて――

「面白れえじゃねえか。」幸司は言った。
「こんなもん、ネットのサバゲーより、断然面白れえじゃねえか。――やってやるぜ、オレは」
謙二郎は驚いた。
おいおい。こんなゲームに乗るっていうのか――!? 人を殺すって言うのか!? これはゲームじゃなくて、現実だぞ!? ――でも明後日は、赤井ミキちゃんの野外ライブなんだよなあ――。 ずーっと前から、楽しみにしてたのに――。見に行きたいよなあ――。 ――待てよ。こいつの側にいれば、自分は人殺しをしなくて済むかもしれない。 もし幸司がクラスのみんなを殺しまくって、最後の2人まで残れば、オレは幸司を殺るだけでいい――。 いや、最後に他の奴が幸司に致命傷を与えたなら、2人きりになった時、オレがあまり手を下さなくても生き残れる。 ワオ! いい考えじゃないか!
「や、殺るっていうのか? 他の奴らを…」謙二郎は訊いた。
「怖いのか? 嫌だったら、付いて来なくていいぜ」幸司が笑ったまま答える。
じょ、冗談じゃねえぞ! お前と離れたら、オレは即ゲーム・オーバーだ!
「い、いや。そうじゃねえよ…」謙二郎は俯いた。
「じゃ、じゃあ、吉崎を…」
「シッ」
幸司が謙二郎の口を塞いだ。
「誰か来る――」
確かに右側の茂み(望の後ろにあたる)から、物音がしていた。

「よお。吉崎――」
その声に、望が慌てて後ろを振り返る。
そこには背が高く、重力に逆らうように逆立った金髪、そして、見られるだけで恐怖を感じてしまう鋭い目つきをした男が、目の前に立っていた。
その男、池田景太(男子3番)の右手には、銃――コルト357マグナムリボルバーが握られていた。引き金に手は掛かっていなかったが。
他人との交流がほとんど無い望でも、この景太の噂は結構耳にしていた。 何でも、どこかの高校の番長を倒したとか、一人で暴走族を壊滅させたとか、実はヤクザの親分の息子だとか―― 望には関係のない話だったが、そういう悪い噂が飛び回っていた。
しかし今となっては、死活問題――ここにいること自体、そうなのだが――だった。 もし、この人に良心のかけらも無かったら、躊躇なく僕を殺してくる――!
望の心の中は恐怖に支配され始めていた。

「池田君――?」望は立ち上がった。
「お前、顔色悪いぞ」景太は笑った。
「当たり前ですよ。こんな所で、冷静な人なんて…」
「じゃあさ」景太は言った。
「もしオレが、『やる気』だったらどうするんだ――?」
その言葉の直後、景太と望は銃を取り出した。 景太は望の額に、望は景太の左胸に、それぞれ構えた。
「ほう――、殺る気か?」景太は訊いた。
「――あなた次第ですね」望は答えた。その表情は、苦しいながらも笑みを作っていた。

「お、おい、幸司! どうするんだ!?」
「謙二郎――」
怯える謙二郎の言葉を、幸司は遮った。
「あの銃を手に入れるぞ」
「え?」謙二郎はたじろいだ。
「な、何言ってんだよ。『手に入れる』って言ったって、簡単には近づけない…」
「まあ、待てよ」幸司が、また遮った。
「オレにいい考えがある」
そう言うと、幸司は自分のカバンを漁り始めた。
「謙二郎。言い忘れたけど、オレの武器はこれだ」
幸司はカバンの中から、何か取り出した。それは、への字に曲がった黒い塊――拳銃だった。
「こ、幸司。お前も…?」謙二郎の声は震えていた。
「バカヤロ。よく見てみろ」
幸司に言われて、よく見てみると、その塊は『拳銃』と呼ぶには重量が軽すぎるし、手触りも全然鉄の感触ではなかった。
「これは――、モデルガンか?」謙二郎が言った。
「そうだな」
幸司の言うとおり、一緒に入っていた説明書にも『モデルガン・コルトガバメント』と明記されていた。 実に精巧に出来ているが、もちろん殺傷能力は低く、弾も丸く小さいBB弾だった。
「でも、これでどうやって――?」謙二郎が訊いた。
「確かに、これだけじゃあ、あいつらの銃は奪えない。――脅しには、なるだろうけどな。でも、お前のは本物だろ?」
幸司は、謙二郎が抱えているウージー9ミリ・サブマシンガンに視線を落とした。
「あ、ああ。でも、オレが扱えるかな――?」
「まあ、初心者は難しいだろ。いくら、こんな状況になったからって、これ結構反動がきついもんな。それに――」
幸司は頭を掻いた。
「少なくても、相手は『動いて』いるんだ。マシンガンって言ったって、そう簡単に当たるもんじゃないさ」
「――そ、それじゃあ」
謙二郎の声はまだ震えていた。 幸治はさらに言った。 「ああ。それ、オレに貸してくれないか?」
「え…?」 謙二郎は悩んだ。
どうしようか――。いくら幸治だからってなー、大事な銃を渡すわけには…。 でも、このまま持ってたって、幸治はともかく、池田には敵わないからなあ…。

「――わかった」 しばらくして、謙二郎が言った。
「これ、幸治に預けるよ」
謙二郎はウージーを幸司に差し出した。
「いいのか?」幸司が訊いた。
「ああ。オレより銃に詳しいお前のほうがいいだろ。それに――」謙二郎は続けた。
「お前は親友だからな」 謙二郎が初めて笑った。幸治が小さくため息をつく。 「お前ぐらいなんだぜ、オレに話し掛けてくれるのは」
「ああ――」幸司は小さくため息をついた。

謙二郎と幸司の出会いは、いささか特殊なものだった。
3年生になったばかりの春、2人は同じ古本屋を訪ねていた。 そして2人は、同じ棚の本――幸司が『戦争兵器のバイブル』、謙二郎が『2000年度・アイドル名鑑』。しかも、その本は隣同士。グレイト――に手を伸ばしていた。
「あれ?お前、4組にいたよな?」
「あ、そういえば――」
それからだった。おたく同士とあってか、すぐに仲良くなった。 放課後、よく学校の空き教室で、謙二郎がアイドルのカードについて語ったり、幸司がモデルガンを作っていた会社が潰れた事に対する愚痴をこぼしたりしていた。

「――どうした?」
ため息をついたまま、しゃべらない幸司に、謙二郎が訊いた。
「いや…」幸司が続けた。
「ちょっと、昔を思い出してな――」
その言葉に不思議がりながらも、謙二郎は幸司からモデルガンを受け取った。


【残り 30人】



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