15 即席同盟(2)


「それで、『いい考え』っていうのは何だ?」謙二郎が訊いた。
「ああ、それなんだがな――」

しばらくして、幸司の作戦の説明を聞いた謙二郎は、少し顔を強張らせていた。

「それで」幸司が静かに言った。
「こんな事、頼んでいいか? もちろん、無理だって言えば、役は代わるけど…」
「いや」謙二郎が遮った。
「これでいい。もう1つの役は、お前がやったほうがいい」
謙二郎は、そう言うと中腰で立ち上がった。
「演じきって見せるさ」
2人は所定の位置へ向かった。

望と景太はお互いに銃を構えたまま、膠着状態になっていた。
「――撃たないのか?」景太が訊いた。
「あなたこそ、引き金を引いたらどうですか?」望は冷笑している。
勝ち目は無い――。望は思っていた。
ただでさえ不利な身長差。それに、こっちは単発銃だが、相手はリボルバーだ。圧倒的劣勢―― 今、出来る事といえば、突っ張って弱みを見せない事だけだった。
「引いてもいいのか?」
景太は引き金に指をかけた。望の緊張がピークに達する。
その時だった。望の後ろの茂みが動いた。景太がそっちの方に銃口を向けた。
「う、動くな!」
声の主は、拳銃らしきものを持った長髪の男――久納謙二郎だった。

幸司が考えた作戦はこうだ。
謙二郎が飛び出して、2人の目を引きつける。 そして、その隙に2人の後ろから、オレがウージーをぶっ放す! 多分、不意を突かれるから、2人は成す術なく倒される。アーメン。 今、謙二郎が飛び出した。後は頃合を見計らって撃つだけだ――!

「久納か――。何してるんだ?」景太は微笑んだ。
「ふ、ふざけるなあ! ぶっ殺してやる! オレは優勝して、生き残るんだ!」謙二郎は叫んだ。
大丈夫か?幸司。オレの演技は。まあ、遠くから見てもモデルガンとは判らないし、こうやったほうが自然だろ? でも、怖いからよ――、早いとこ片付けてくれ、幸司――!
「おーおー。お前、狂っちまったか。怖いこった。でもな――」
微笑みながら景太は、続けた。
「そんなちゃっちいモデルガンで、一体何が出来るんだ?」
え?な、何だって――?
その言葉に、謙二郎は驚いて体が硬直した。

な、何故だ――!?
驚いたのは、隠れている幸司も同じだった。
ど、どうして判ったんだ――!?見慣れてるオレだって、遠目で判るもんじゃないんだぞ! ――とにかく、謙二郎がピンチだ!
幸司は茂みから飛び出して、ウージーを構えた。
しかし幸司は、目を見開いて、動きが止まってしまった。 吉崎の額に向けていたはずの池田の銃が、こっちを向いている――! 畜生!
幸司がウージーの引き金を引こうとした寸前、景太の銃から銃弾が3発放たれていた。 初めの1発が右脇腹に、次が首の下に当たり、そして最後の弾は幸司の左目を捕らえた。 幸司はそのまま地面に倒れた。

謙二郎は一部始終を、2人越しで見ていた。
親友が目の前で倒れていく――。しかも、池田の野郎に――!
謙二郎はその様子を、ただ黙ってみているしかなかった。
おいおい、冗談よしてくれよ。お前は兵器に詳しいんじゃなかったのか!?こんな所でやられるお前じゃないのに――!
「久納」
謙二郎は前を向いた。景太は向きを替え、再び銃を構えていた。
「あばよ」景太は引き金をかけた指に力を入れた。
窮地に陥った謙二郎の脳内は、自分の部屋を思い出していた。
壁一面に張ったアイドルのポスター、ミキちゃんのフィギュア、ファンクラブのみんなで取った写真、パソコン、口うるさい親父――。みんな、消えていく――。
景太が撃った弾は、謙二郎の額を正確に捉えていった。

「なあ」謙二郎を撃った後しばらくして、景太は言った。
「お前、何でビビらなかったんだ?」景太はリボルバーをベルトに挟みこんだ。
「――もう、撃つ気は無えって」景太は微笑んだ。
望は小さいため息をついて、言った。
「あれは――、覚悟を決めていたんです」
「ほほう」景太は口笛を吹いた。
「オレに撃たれる覚悟?」
「――はい」望は頷いた。
「正直怖かったんです。撃たれるのか?死ぬのか?って事しか頭に無くて――。でも、ここで怯えてもしょうがないので、必死に耐えてました」
景太から笑みがこぼれた。
「つまり、ずっとハッタリかましてたのか? お前は」
望は、はいと言って頷いた。

「ふーん…。――ま、さすがは秀才さんだな」
景太は望を通り過ぎて、幸司の元へと近づいていった。
「こいつは――、中村か」
景太は顔を覗き込んだ。 そして、もっていたウージーを引き剥がした。 後ろで見ている望は、黙ってその様子を見ていた。
「へえ、マシンガンじゃねえか。いいもん持ってんなあ」
景太はウージーを見ると、怪しい笑いを浮かべた。

「ところで――、お前はクラスメートを撃てるのか?」
「え?」
幸司のウージーを構えながら、景太は望に訊いた。
「人を殺すのに、抵抗は無いのかって聞いてるんだよ」先ほど違って景太の顔に笑みは無い。
「……」望は少し空を見た。
「無いといえばウソになります。でも――、僕はまだ、死にたくないので――」
「ふうん」
幸司のバックを持って、景太は立ち上がった。
「じゃ、決まりだな」
「――何がですか?」望は返した。

景太は、続いて謙二郎の死体に近づいていった。そんな景太に、望は後ろから付いていく。 謙二郎が絶命している事を確認すると、謙二郎が持っていたモデルガンを望に投げてよこした。
「持っとけ。」
「え?」
「そんぐらいだったら、脅しにはなるだろうよ」
そして、景太は2人のカバンを漁り始めた。
「――どういう意味ですか?」
望が驚いて、訊いた。景太は言った。
「オレに付いて来いよ、吉崎。――お前の事が気に入ったぜ」
「は、はあ?」
「いや――。今まで、オレにガンつけられて、ビビらなかった奴はいなかったからよ。お前が初めてなんだぜ」
景太は笑いながら、言った。
気に入った、だって?こんな状況で、何を言ってるんだ?この人は。
「池田くん、あなたは一体――」
「あん?」
カバンを漁っている景太に、望は言った。
「一体、何者なんですか?」
「さあな…」景太は答えた。
「ま、今、言える事は、オレは気まぐれで動く男だからな…」
「気まぐれ――ですか?」
景太はカバンを漁りながら、ああと答えた。
あなたは2人を殺しましたが、それが気まぐれだって言うんですか――?
景太は水や食料など、漁ったものを一つにまとめていた。 「まあ、気にするなよ。どうせ、2人以上じゃ、優勝は出来ないんだからな」
「じゃあ――」望は静かに口を開いた。
「僕とあなただけになったら、どうするつもりですか?」
「――それは、2人になった時に考えようぜ」
景太は立ち上がった。

望はぞっとした。
池田景太の『気まぐれ』というボーダーラインのせいで、自分は生かされ、久納謙二郎と中村幸司は脱落して、死んでいった――
――もう、この人から離れられないな。
望の顔が、静かに強張っていった。



【男子9番・久納謙二郎  男子12番・中村幸司  死亡】 【残り28人】



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