16 漁夫の利


「な、何コレ――?」
望と景太の頭上で、梅田昭代(女子3番)は先程から震えていた。
昭代のいる場所は崖になっていて、その上から下での一部始終を見ていた。
あっという間の出来事だった。 池田くんと吉崎くんが話している間に、久納くんと中村くんが出てきて、それで二人とも撃たれて――
昭代の思考は混乱していた。 小柄な体は地べたに寝そべりながら、顔だけ崖から乗り出して一部始終を見ていたが、その顔はひどく引きつっている。 人の死体を見たのは、これで初めてではないが、やっぱり慣れるものではない。
――怖い。怖いよ――。やだよ。輝美や久納くんみたいになりたくない――。 ああ、そういえば、輝美も死んじゃったんだね。 修学旅行が終わチたあとに、借りてたCD返すつもりだったけど、返せなくてごめん――。 ああ、何言ってるんだ!私は!
昭代の脳裏に、今まで一緒にいた『友達』の姿が浮かび上がってきた。 一緒にいると楽しかった輝美、輝美と一緒で明るかった潤子、いつもぼんやりしてた葉月、バレーの話になると止まらなかった佐知子――
みんな死んじゃうような人たちじゃなかったのに――。 何で死んじゃったの? 何処で死んだの? 本当に、この世にはいないの――? ねえ、ウソだよね? ウソだって言ってよ――!

一方、下では景太が荷物を漁り、何処かへと立ち去っていこうとしていた。 その時、昭代の目は動く何かを捉えた。 離れた反対側の崖だったので、すぐには判らなかったが、その子供っぽい顔立ちから、青木裕(男子1番)である事が分かった。 いつも、服部竜司(男子14番)と一緒にいる、気が弱くて、影の薄い人―― そんな裕の事だから、目の前の惨劇に足がすくんでしまったのだろう。

昭代は考えた。
今なら――、今なら、青木くんを殺せるかもしれない。確かに、殺人はやっちゃいけない。でも、殺さないと生き残れない。 死ぬのは怖い。でも、『あっという間に』死ぬというのは――。 何も知らずに死んだなら、きっと、目の前の景色が電気のスイッチを切ったように真っ暗になるだけ。少しの痛みはあるだろうけど。 たぶん青木くんも、死の恐怖はあるだろうけど、そんな風に死んでも恨まないはず。きっとそうだ――。
昭代はバックの中から、何かを取り出した。 鉄の弓に、鉄の矢――アーチェリーだった。 昭代は以前に、アーチェリーをした事があった。 そう、弓矢ほど難しくなくて、命中率も高め。 昭代はアーチェリーを構えた。
よーく狙って――。一発で仕留めてあげないと、可哀想だからね――
狙いをつけて、弦と弓が軋み合う音がして、いよいよ矢を放とうとした。 その時だった。いきなり乾いた大きな音がして、何かの塊が昭代の額を貫いていった。 コントロールを失った銀の弓は、ものすごいスピードで満月の月夜へ放たれていった。 昭代の体は、仰向けに地面に倒れた。 その頭部は、もはやぐちゃぐちゃになっていて、生気など一切無かった。
望みどおり、昭代は『あっという間に』天国へと旅立っていった。


「な、何なんですか? 今の銃声は――?」
歩き出していた望は、突然の銃声に、おののいていた。
「悪りい、悪りい」 望の後ろで、景太が言った。
「いろいろいじってたら、暴発しちまってよお――」
右手に持っていた景太のリボルバーは、銃口を後ろに向けて煙を吐いていた。
まあ、誰かに当たったなんて事は無いだろ――
望は、ため息をついた。
「全く――、気を付けて下さいよ」
「へーい」
景太は微笑みながら、返事をした。

「また一人、殺しちまったか――」
昭代のいた崖を見ながら、景太は言った。
「何ですか?」
「いや、こっちの話――」

望と景太が去った後、裕は下へと降りていった。昭代の死体には気づかずに――


【女子3番・梅田昭代 死亡】  

【残り27人】



BACK/ HOME/ NEXT



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送