17 少女の正体


「ふう。ここまで来れば安心ね」
小西彩(女子6番)は静かにリュックを下ろした。

ここは森の中。さっきの放送では、しばらく禁止エリアというものに入る危険は無いようだ。
森小屋を出た後、彩は森の中を歩き回った。
そして、周りに人がいないことを確認して、その場所にあった大きな切り株に腰をおろした。

「私ったら、ここまで出来たのね――」
彩は微笑んだ。
さっきまで――少なくとも、ホテルに居る時までは、私はいつもと変わらない日常の中にいたはずだった。 教室の片隅で小さい文庫本を読んでいる、日常の私――
しかし今はどうだろう。
3人を殺した挙句に、死体を見ても何にも思わなかった。(ここに来る途中で2つほど死体を見た。確か酒田敬と杉山智恵だったと思う)
そうなったのも、『あいつら』から逃げるため――
私を縛り付ける障害を取り除くためにやっていること――

あの3人を殺すために、少し演技をしてみた。
寺田潤子(女子11番)に誘われた時から、すでに決めていた。仲間になったフリをして、集まったメンバーを殺そうと――
その手始めに、潤子の目を盗んである仕掛けを作った。 実は彩の支給武器はテープレコーダーとスピーカー(これも潤子の目を盗んでみてみた。もちろん武器はないと言ったのはウソだ)で、それは配線で繋がっていてテープの声をスピーカーで拡張できるようになっていた。
彩は付属の音入りテープから『銃声』を取り出し、それをレコーダーにセットしタイマーをセットし、草むらに置いた。 あとはタイマーが作動するのを待つだけ。こんな状況で銃声を聞けば、誰だって混乱する。潤子たちも同じだった。 そして、外に警戒心を取られている隙に、手に持っている青龍刀で女子3人を殺すことは難しくなかった――

「そういえば、かったるいのよね、コレ」
彩はメガネを外し、三つ編みの髪を解き始めた。
すると小西彩は、ウェーブのかかった肩ぐらいまであるセミロングの髪に、メガネをかけていた時にはあまり目立たなかった、整った顔の美少女に変身していた。
「・・・久しぶりだね。これを解くのも」
メガネをはずし三つ編みの髪を解くのは、入浴のとき以外は滅多にしなかった。 それも『あいつら』の指示だった。

彩は首に掛けていたブローチを外し中身を開いた。月明かりがうっすらと中身を照らし出す。
「パパ、ママ・・・」
ブローチの中にあったのは、公園で遊ぶ一組の家族の写真。母親と父親が幼い娘を抱いて、にっこり微笑んでいる。
――あれから、1年近く経つのね・・・。何か私も変わっちゃったよね。 彩はまた微笑んだ。

生まれた時、小西彩は別の名前で生まれてきた。名前が変わった原因は、1年前に起きた出来事が原因だった。
――1年前、とある交差点で交通事故が起きた。現場の状況は悲惨で、かろうじて幼い娘は助かったものの、両親は帰らぬ人となってしまった。
その後、生き残った娘は遠い親戚の小西家に預けられた。 小西家は地元でも有名な旧家で、その家族もまるで昔の『封建時代』を思わせるかのような、かなり厳しさだった。
それから、少女の辛い日々が続いた。 当主である老夫婦は、かなりの淑女教育を少女に課せ、少しでも間違えば容赦なく鉄建制裁を加えた。『おしとやか』と名の付くものは、何でもやらされた。その為、彼女の時間は奪われ、友達を作ることも出来なかった。 そして、それは学校に居るときにも及んだ。少女は強制的に髪の毛を三つ編みにされて、度の無いメガネを掛けさせられた。それまでのサラッとした長髪のストレートヘアーの端麗な女の子の面影は全く無くなっていた。
こうして、少女が預けられてから1年。その少女は養父母が望む通りの、絵に描いたような清楚な少女になっていた。

彩は肉親の写真が収められているブローチの裏を見た。そこには『さくさべ さや』と、落ち着いた字で書かれていた。 これは私が小さいころに、ママが無くさないようにって書いてくれたもの。そう――

作草部 沙耶。それが私の名前だった――

彩はブローチを両手で握り締めた。
パパ、ママ。ゴメン――。 私はもう3人もの人間を殺しました。 確かに、人間としてこんな事は許される事ではないのは判っています。
でも・・・。私、苦しかった――。 友達と遊ぶ事も、女の子らしいおしゃれをする事も許されなくて、食事の時でさえ、ちょっととでも間違えたら遠慮無しに叩かれたし、とにかく自由が無くて息苦しかった…。まるで監獄の中に居るみたいでした。
だから・・・。
私を暗い闇の底に縛りつけた『あいつら』なんかに葬られるなんて、絶対イヤ――!

しばらくブローチを握り締めながら、涙を流していた彩だったが、突然泣き止んで、すっくと立ち上がった。
「さて…、次の獲物を探さなくちゃ――」
彩は森の奥を進んでいった。


【残り 27人】



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